内海皮フ科のブログ

  口唇、口囲、陰部などに発症する単純ヘルペスはよく再発します。その際、抗ウイルス剤を服用すれば、改善しますが、再発が減るわけではありません。最近ではPIT(patient initiated therapy)両方と呼ばれる、予め多くの量の抗ウイルス剤を持っておき、単純ヘルペスが出現しそうに感じた時に一度に服用する治療が推奨されています。何人かの患者さんに処方しましたが、発症しないか軽症で済んだようで、その後、早めに抗ウイルス剤を処方してもらいに来る患者さんもいました。 これまでは再発時に抗ウイルス剤を服用するしかありませんでしたが、PIT療法で患者さんのヘルペスによる苦痛はかなり軽減されたと思います。

 再発性単純ヘルペスの漢方治療としてはこれまで補中益気湯を処方して、再発が抑えられた症例を経験していましたが、たまたま岐阜県総合医療センタ-産婦人科東洋医学科の佐藤泰昌先生が学会の要旨に「再発性口唇ヘルペスに対する漢方薬の効果」というタイトルで補中益気湯の有効例を紹介されていました。補中益気湯は、その名の通り「中」(脾胃≒消化吸収器官)の機能を強化することにより、「気」を益す作用がある。口唇は東洋医学では脾胃にあたり、「気」は免疫力にも作用する。そのため、疲労やストレスを契機とした口唇ヘルペスには効果が期待できると書かれています。

2023.8.30記載

●清暑益気湯

 

連日猛暑日が続いています。夏バテ気味の人も多いと思います。
夏バテに処方される清暑益気湯という処方があります。食欲不振、口渇、多汗、尿量減少、全身倦怠などの症状がある時に処方します。暑熱により、気虚と津液の損傷(水分代謝の乱れ)を起こしたものに用います。
清暑益気湯に近い処方には、補中益気湯十全大補湯、人参養栄湯、六君子湯、五苓散などがあります。補中益気湯十全大補湯、人参養栄湯は比較的体力の低下した人に用います。六君子湯は胃腸の弱い人、五苓散は発汗、口喝の強い場合や、熱中症の初期に用いることがあります。

休息、水分補給などの夏バテ対策をしても改善しない場合は漢方薬を服用してみてください。

(一部、高山宏正著、腹証図解 漢方常用処方解説より引用)

2023.7.31記載

  • 消風散と温清飲

6月も終わりが近づき、蒸し暑い日々が続いています。夏になるとアトピー性皮膚炎の患者さんに対する処方を温清飲(うんせいいん)から消風散に変えるようにしています。

温清飲はのぼせやすく、痒みが強く、皮膚枯燥し、乾燥落屑の傾向が強い場合に用います。冬場の乾燥時期のアトピー性皮膚炎の患者さんによく処方しています。消風散は分泌物があって痂疲を形成し、痒みの強い場合に用います。夏場の湿潤時期のアトピー性皮膚炎の患者さんによく処方しています。

 消風散と温清飲は標治(現在の症状を治すこと)として処方しますが、もちろんアトピー性皮膚炎の治療には本治(体質を改善する事)の処方も重要です。

 本治の処方は年中通して基本的には変わりませんが、標治は季節を感じながら処方するところが、西洋医学にはない東洋医学の興味深いところです。

(一部、高山宏正著、腹証図解 漢方常用処方解説より引用)

2023.6.30記載

  • 柔軟性のある漢方治療

 コロナはかなり終息してきましたが、漢方薬の供給不足はまだ続いています。ある漢方薬が入手できない場合に、他の漢方薬で代用できることがあります。

 例えば葛根湯が不足した時には麻黄湯を、補中益気湯が不足した時には人参養栄湯を、消風散が不足した時には越婢加朮湯を、八味地黄丸が不足した時には牛車腎気丸をなど、融通が利くのが漢方薬の特徴です。厳密には処方する病態が違いますが、当たらずも遠からずと言ったところでしょうか。
 西洋薬のようにピンポイントで病気を治すのではなく、病態を変えて行くのが漢方治療なので、こういった応用が利くのだと思います。 

最近、抗生剤の注射薬が欠品することがあって困ったことがありましたが、、薬剤の不足に柔軟に対応できるのは漢方治療の長所と言えると思います。

2023.6.1記載

  • 柴苓湯(さいれいとう)のざ瘡への応用

 ざ瘡はいわゆるニキビのことで、集簇性ざ瘡はざ瘡の特殊型で嚢腫、結節を生じる難治性のざ瘡です。

 明和病院皮膚科の黒川一郎先生は明和医学誌の論文で集簇性ざ瘡の柴苓湯による治療について詳しく書かれています。集簇性ざ瘡は臨床的には顔面、前胸部、背部、肩甲部、上腕などの毛包の分布する部位に嚢腫、結節、瘢痕といった肉芽腫形成が強い傾向を示す疾患です。

 柴苓湯の作用として、内因性ステロイド様作用、免疫調節作用などがあり、炎症症状、瘢痕形成の抑制に働いたものと推察されています。

 私はこれまで傷跡が隆起するケロイドにステロイド局注やリザベン内服とともに柴苓湯を併用して処方していますが、柴苓湯を併用したほうが、治りが早い印象を持っています。

 柴苓湯は、吐き気、食欲不振、のどのかわき、排尿が少なく状態で、水瀉性下痢、急性胃腸炎、暑気あたり、むくみなどに効果的とされていますが、集簇性ざ瘡の治療にも柴苓湯を応用してみたいと思います。


2023.4.30記載

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梔子柏皮湯(ししはくひとう)

 今年はスギやヒノキの花粉に悩まされている患者さんが多いようです。顔面の皮膚炎で来院される患者さんで、鼻炎を伴っている場合は皮膚炎の原因は花粉によるものと思われます。

 顔面の皮膚炎に対しては、抗アレルギー剤の内服、弱めのステロイド外用薬の塗布でほぼ改善します。特に眼周囲に皮疹を認める時はこれらの西洋薬とともに漢方薬の梔子柏皮湯をよく処方しています。

 梔子柏皮湯は山梔子(サンシシ)、甘草(カンゾウ)、黄柏(オウバク)の3つの生薬から構成されています。肝臓部に圧迫感がある皮膚のかゆみ、黄疸などの症状があるものに用いる漢方薬です。通常、黄疸、皮膚そう痒症、二日酔いの治療に用いられます。皮膚科的には眼周囲の皮膚炎によく処方しています。西洋薬単独の処方より良く効いていると実感しています。

2023.3.30記載

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口内炎、口唇ヘルペス半夏瀉心湯

  口内炎や口唇ヘルペスは皮膚科で良く診ている疾患の一つです。疲れたり

ストレスが溜まった時によく発症します。

 西洋医学的には口内炎には口腔用のステロイド外用薬や胃薬、口唇ヘルペスには抗ウイルス薬の内服薬と外用薬を処方しています。

 さて東洋医学的には半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)が処方されることがあります。あきば伝統医学クリニック院長の秋葉哲生先生は文献、高齢者特有疾患の漢方ベストチョイス36の中で、半夏瀉心湯は、いつも胃がもたれたり、悪心があって吃逆(しゃっくり)したり、腹がぐるぐると鳴って下痢しやすい人に口内炎などがある場合に用いられる。舌炎、口内炎、口唇ヘルペスのいずれにも効果を示す可能性がある。また急性期は西洋医学の対症的な薬剤を用いて対処し、慢性期に反復するのを漢方薬によって軽減あるいは治癒に導くという方針でのぞめば良い結果がきたいできるであろうと記載されています。

 私は繰り返す口唇ヘルペスの患者さんに免疫力を高める補中益気湯を処方して、症状の発現が抑制された症例を経験したことがありますが、口内炎、口唇ヘルペス半夏瀉心湯を積極的に処方してみたいと思います。

2023.2.27記載