内海皮フ科のブログ

 

No.259

  • 茶色の手帳

  私の診察室の棚にはスマホよりやや小さ目の茶色の手帳がいつも置いてあります。茶色の表紙に茶色の文字(判読しにくいですが)でTSMURA KAMPO MEDICINE FOR ETHICAL USE, その下にツムラ医療用漢方製剤と記されています。

 裏表紙に制作が2005年11月と記されていました。漢方メーカーのツムラ社から貰ってからほぼ17年間も使っていることになります。

 その手帳はツムラ社の漢方薬を番号順に並べて、効能、効果、生薬の組成、用法、用量、使用上の注意事項、使用目標などが記載されています。さらに前の方には五十音順索引と疾患・症候別索引があり、特に疾患・症候別索引は各科の疾患に対して適応となる漢方薬が掲載されていて参考になります。皮膚疾患に対する処方も多く掲載されています。但しそれ以外の処方で自分なりに良い思うものは使っています。

 診察室で日に1,2回はこの手帳を開いて処方を決める参考にしています。ページをめくっていくと、ボールペンで追加の書き込みや重要なポイントに丸印がしてあり、年月の経過を感じます。

 

2022年3月30日記載

 

No.258

  ●内服薬の副作用対策としての漢方薬 

新型コロナウイルスの感染が収まらずWEB講演会に参加することが多くなりました。
 数週間前に開催されたツムラ社のWEB講演会で神経障害性疼痛に対する薬剤のプレガバリン(リリカ)の副作用のふらつきへの対策として半夏白朮天麻湯が奏効した症例の報告がありました。半夏白朮天麻湯に近い処方として五苓散があり、それも有効かもしれません。
 皮膚科を標榜している当院では帯状疱疹後神経痛にプレガバリンをよく処方します。最初は半量から開始しますが、それでもふらつきを生じる患者さんが半数くらいの割合でいます。その場合にはプレガバリンの処方を諦めていましたが、これからは漢方薬を併用処方してみようと思います。
 また神経障害性疼痛以外の副作用の出る内服薬があるので、その副作用に応じた漢方処方も考えて行きたいと思います。

2022年2月27日記載

                  

 

No.257

  • 皮膚疾患の漢方治療、印象に残る症例

 

 長年にわたり漢方治療をしていていつまでも印象に残っている症例がいくつかあります。その中の2例を紹介します。その中の2例を紹介します。

 1例目は真武湯で改善したアトピー性皮膚炎の症例です。男性で長年にわたり治療をしていたが改善せず、ある日、診察時に下腹部を触ってかなり冷えているのに気づき、を改善する目的で真武湯を投与してみると次第に乾燥粗造な皮膚がゆっくりと改善してきました。現在は通院されておらず、どういう状態か分かりませんが、真武湯を他の患者さんに処方する際にはいつもその患者さんを思い出します。

 2例目は通導散で改善したアトピー性皮膚炎の症例です。女性で顔面の紅斑が目立つ患者さんでした。ある日、舌を診ると、舌下静脈の怒張がみられ瘀血(血の巡りが悪い状態)の強い人と診断し、最強の駆瘀血剤の通導散を処方したところ急速に顔面の紅斑の色調が薄くなりました。患者さんに「素晴らしい」と言ってもらえたのを覚えています。現在は通院されておらず、どういう状態か分かりませんが、舌診をして舌下静脈の怒張を認めた時など、その患者さんを思い出します。

 これからも時折この2人の患者さんのことを思い出すでしょう。

 

2022年1月30日記載

 

 

No.256

 ●治療後経絡的に漢方薬が奏効したと考察できた皮膚疾患の2例

 今年も終わりが近づきました。東洋医学雑誌に投稿して1年越しで、論文『治療後経絡的に漢方薬が奏効したと考察できた皮膚疾患の2例』が掲載されました。経絡的に考察はなかなか難しく共著者の協力のおかげで論文ができました。要旨を以下に掲載します。

『皮膚疾患の皮疹が局在している場合があり、これは西洋医学では説明できないことが多い。しかし、漢方医学的には皮疹の局在について経絡学的に解釈することができ、よりきめ細やかな治療が可能であった2症例について報告する。症例1は32歳女性、口囲に散在性の丘疹にて尋常性痤瘡と診断し,六君子湯を投与して軽快した。症例2は37歳男性、アトピー性皮膚炎にて頚部の皮疹が目立ち、辛夷清肺湯を投与して軽快した。皮疹の改善後に経絡的に考察した。上記2症例の疾患の部位はそれぞれ足陽明胃経、手陽明大腸経が通っている。六君子湯辛夷清肺湯の構成生薬はそれぞれすべて脾経、肺経に関連しており、六君子湯は足太陰脾経を介して、つながって表裏をなしている足陽明胃経に、辛夷清肺湯は手太陰肺経を介して、つながって表裏をなしている手陽明大腸経に働いたと考えられた。経絡的な解釈でこれらの疾患に対して漢方治療が有効であったと考えられた。』

経絡的な治療はまだまだ奥深く、これからも追求したいと思います。

2021.12.29記載

  

 No.255

 

  • テキストには掲載されていないアトピー性皮膚炎の漢方処方

 

アトピー性皮膚炎の漢方治療において様々な漢方薬が処方されており、漢方医学のテキストに紹介されています。しかしながらそれらの方剤を処方しても、改善しないことも経験します。テキストには掲載されていない漢方薬を処方して、有効であった症例を経験しました。

アトピー性皮膚炎に関する記載がある漢方医学のテキストは多くありますが、代用的なものとして、花輪壽彦著 漢方診療のレッスン、高山宏正著 弁証図解 漢方の基礎と臨床、山本 巌著  皮膚科臨床講座、二宮文乃著 アトピー性皮膚炎の漢方診療マニュアルなどがあります。

これらのテキストに掲載されていない漢方薬アトピー性皮膚炎に処方して有効であったのは、真武湯、辛夷清肺湯、甘麦大棗湯でした。真武湯は本治として、新陳代が低下し、下腹部の冷えを伴う症例に、辛夷清肺湯は頸部に皮疹を認める症例に経絡的に、甘麦大棗湯は肘窩、膝窩に皮疹を認める症例に経絡的に、それぞれ有効でした。

 テキストの処方を基本に、これらの漢方薬を使い、また新たな処方も見出したいと思います。

 

2021年11月30日記載


これまでニフティココログで書いてきたブログですが、都合によりこれからは、はてなブログに主に皮膚疾患に関する漢方治療の話題を掲載していきます。これまでの記事はココログの『内海皮フ科のブログへようこそ』を読んでください。